- ---
- ではお一人ずつ入社した時のことからうかがいましょうか。
- ---
- 吉住さんは、いつの入社でした?
- 吉住
- 僕は、'83年です。'83から'85年。『少年チャンピオン』に『プライムローズ』か何かが連載されていて、そこに募集記事があったんですね。当時、僕は別なマンガ家のアシスタントを何ヶ月かしていたのですが、やっぱり手塚先生の大ファンだったし、何か不満の様なものが溜まっていったというか・・、どうも僕の思い描いていた世界とは違うなと・・。どうせなら、もうイチかバチかっていう感じで手塚プロに応募してみたんです。まさか受かるとは思いませんでしたけど・・(笑)。
- ---
- 手塚プロなら、まあ由緒正しいし、という・・・?
- 吉住
- そういう訳ではないですけど、憧れでしたから・・・。
- 石坂
- 手塚プロというのは、ちゃんと会社になっていたので、他のマンガ家さんの仕事と比べると、やっぱり基本的なところがしっかりしていたと思うんです。"お弟子さん"じゃなくて、社員募集っていう形で、"マンガ部のアシスタント"として入社するような・・・。だから、学校出てから就職する形で私たちも入ったんですね。就職活動のつもりで原稿を描いて、応募して。よっちー(吉住)の入る五年前ですけど、私たちは。'78年。
- 吉住
- 石坂さんたちとは三代、差があるんです。
- 石坂
- 大体、二、三年平均くらいで替わっていくから、その間にもいろんな人が入ったり出て行ったりしてるんですよ。マンガ部はみんな、独立してマンガ家になるのが目的だから、手塚プロで修業をするみたいなところがあるんですね。先生のお手伝いの仕事で生活費になるんだけども、自分のメドが立ち次第、どんどんやめていく--で、一回引いて、またあとでOBとして手伝ったりという風になっていくので、入れ替わりが多いんです。
- ---
- OBという言葉があること自体面白い。
- 吉住
- 他ではないんでしょうかね。
- ---
- やっぱり学校みたいな感じですね。
- 石坂
- ああ、そうですね。
- 吉住
- あー、そうか、僕はずっと学校だと思いこんでいました(笑)。
- 石坂
- 私も「学校に行ってるのに給料もらっていいんだろうか」って感じで(笑)。
- 堀田
- 吉住くんたちの時代ってさ、先生は何をやってたの?
- 吉住
- 作品ですか。『アドルフに告ぐ』と『陽だまりの樹』ですね。あとはアニメとか。
- 高見
- ああ、『アドルフ』やったの。
- 堀田
- 『アドルフ』って週刊だっけ?
- 吉住
- そうです。週刊10ページ。
- 堀田
- で、あとは『陽だまりの樹』でしょ?あれは隔週じゃなかったっけ。
- 吉住
- そう。それからね、『ブッダ』の終わりと『(火の鳥)太陽編』の最初の頃とか。
- ---
- では、少し話題を戻して、入社時の感想を話して下さい。
- 吉住
- そうですね。えーと、初めで手塚先生に会えたのは、入社して三日目ぐらいだったんですけど、やっぱり「あの手塚先生に会えるんだ」と思うとすごく緊張してて、で、作品とか見ていただいて「うん、キミの主張はナニナニだねえ」とかね・・、何ていうのかな、本当に優しそうな顔でね、「これが手塚先生なんだ!」と感動したんですよ。ところがね、もうその次の日、ちょうど先生が旅行に行く間際だったらしくて、すごく慌ただしく怒ってるんですよ。何だか、いきなり不機嫌なんです(笑)。
- 石坂
- いきなり別人なんだよね(笑)。
- 吉住
- そう、いきなり別人。昨日会った先生と、どうしてこんなに違うんだろうってとにかくびっくりしました・・・。
- ---
- もともと先生の作品は、どのあたりを読んでたんですか?
- 吉住
- やっぱり、僕ぐらいの世代だとタイムリーなものは『ブラックジャック』とか『三つ目が通る』あたりから入って、それからだんだん過去の作品に遡っていくみたいな感じですよね。先生の短編は特に好きで、『空気の底』とか『ザ・クレーター』とか、あの辺りを読み出したら、ああ、すごくいいなァと思って。
- ---
- なるほど。で、入社してすぐにそういうことがあったわけですね。何を怒っていたんですか、先生は。
- 吉住
- そうですね、言っていいのかどうか・・。
- ---
- まずそうだったら、後で削れますから。
- 吉住
- そうですか。要するに、入れ歯がなくなったらしいんですよ。「入れ歯がないと、ボクはもう行きませんっ!」って。旅行に行かない、と。
- 石坂
- えーっ、よっちーの時もそうだったの?
- 堀田
- オレたちの時もあったよ。
- 高見
- あったねー(笑)
- 吉住
- それで、みんなで探してました。もうピリピリしながら。僕はもう、ただボーゼンと立ってましたね。「何なんだ、この雰囲気は」とか。異様でしたよ、みんな青ざめちゃっててね。
- 石坂
- んー、あるある。
- 堀田
- まったく同じだね。会社全員が探してたんでしょ。
- 吉住
- うん。ゴミ箱とかも全部探すんです。でもないんですよね。先生は怒鳴ってるし。「もうあれがないと、旅行に行けません!」とか「もう、どうにかして下さい!松谷氏」とか(笑)。
- 堀田
- それ、それ。
- 石坂
- 同じことがあったね。入れ歯だけで何回かあるんですよ。先生が原稿に"マルつけ"(OKサイン)を始めてて、一番忙しい、原稿がワァーってある時にね、みんながソーゼンとなって、原稿そっちのけで立ちあがってね、ゴミ箱全部ひっくり返しちゃってるわけ。その時は、確か、先生がテレビ出演する日だったのね。で、あとで聞いたんだけど、その時先生は口を手でかくしておりてきて、事務所にね「もうこんな顔で、テレビなんか出れませんから、断って下さい」とか言ったの。で、マネージャーが「生放送だし、断れないから、マスクでも買ってきますからなんとか出て下さい」って。
- ---
- 何で入れ歯がなくなるんですか?
- 吉住
- やっぱり置き忘れるんですよ。メガネとかもね、よく置いていっちゃうし。ベレー帽は、さすがに置いていきませんけど(笑)。
- 堀田
- 置いていかないね。
- 石坂
- うん。取ってる時はあってもねェ。
- ---
- そうですか。では次に、堀田さんの入社の動機、それから手塚作品だとどの辺りが原体験なのか・・・そのあたりを。
- 堀田
- まず『鉄腕アトム』じゃないですかね。アニメのって言うより『少年』に載ってたマンガのアトム。あの辺りですよ。
- ---
- 手塚ファンの王道ですね。で、入社の動機というのは?
- 堀田
- 大学が工学部だったんですがね、ムリして工学部に入ったもんで追いついて行けなくなったんですよ。で、もうやめるしかないと思ってたところで突然、「マンガがいいんじゃないか」っていう感じになって、描いたんです。そしたらちょうど『少年チャンピオン』の『ブラックジャック』のワク外のところに「アシスタント募集」って それで応募したんです。
- 石坂
- でも、手塚先生のすごいファンだったんでしょ?
- 堀田
- そうそう。それまでは、手塚先生の単行本を集めるのが趣味だったんですよ。他のマンガは全然読まないで。
- ---
- けっこうマニアックなファン?
- 堀田
- いや、マニアックというんでもないんです。手塚先生の作品は、量的にはそんなに知らないんですよ。だから、本になってみんながある程度知っているようなものを買っていたんですよね。だから手塚プロにも"入っちゃった"という感じでしたよ。
- ---
- 今、おいくつでしたっけ?
- 堀田
- 33です。
- ---
- とすると『少年』の末期の読者。
- 堀田
- そうですね。末期、そうでしょう。だから週刊誌も出ていて『ジャンプ』が出始めた頃かな。
- ---
- だとすると本当の末期・・・。『少年サンデー』で『どろろ』とか『バンパイヤ』とかは読んでますか?
- 堀田
- 実は読んでないんですね。だからマニアでもないんですよ、僕は。『アトム』は小学三年ぐらいから読んでましたけど、それからは少し空いてて。で、入っただけで(笑)。
- ---
- で、入社して、どうでした?
- 堀田
- 入って初めて先生に会ったのが・・・いつだっけ。えーと、まず手塚プロの制作室っていうマンガの作業をする部屋があって、そこがあいた時、先生が暇だと会えることになるんですよね。その(会う日を)あらためなかった?一回面接して、いついつに来てくれなんて?
- ---
- あ、高見さんも同じ告知で入ったんですか?
- 高見
- この三人(石坂・高見・堀田)は、まったくそうです。同じ時に『チャンピオン』を見て。
- 石坂
- だから 私たちは面接の時に初めて顔を合わせて、先生に会ったのは、仕事が始まって2、3日後だったかなあ。最終段階で私たちのマンガを見て「この五人」っていう風に決めてくれたはずなんですけどね。
- 吉住
- まず初日に(先生に)会えるってことはないですね。必ず何日か後ですよ。
- 石坂
- ちょうど締め切りがあいた時に、先生があいさつしてくれたりとかね。
- 堀田
- その時に、だから自分の作品と名前を言って、先生にあいさつをするんです。
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