元アシ座談会の最近のブログ記事

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ではお一人ずつ入社した時のことからうかがいましょうか。
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吉住さんは、いつの入社でした?
吉住
僕は、'83年です。'83から'85年。『少年チャンピオン』に『プライムローズ』か何かが連載されていて、そこに募集記事があったんですね。当時、僕は別なマンガ家のアシスタントを何ヶ月かしていたのですが、やっぱり手塚先生の大ファンだったし、何か不満の様なものが溜まっていったというか・・、どうも僕の思い描いていた世界とは違うなと・・。どうせなら、もうイチかバチかっていう感じで手塚プロに応募してみたんです。まさか受かるとは思いませんでしたけど・・(笑)。
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手塚プロなら、まあ由緒正しいし、という・・・?
吉住
そういう訳ではないですけど、憧れでしたから・・・。
石坂
手塚プロというのは、ちゃんと会社になっていたので、他のマンガ家さんの仕事と比べると、やっぱり基本的なところがしっかりしていたと思うんです。"お弟子さん"じゃなくて、社員募集っていう形で、"マンガ部のアシスタント"として入社するような・・・。だから、学校出てから就職する形で私たちも入ったんですね。就職活動のつもりで原稿を描いて、応募して。よっちー(吉住)の入る五年前ですけど、私たちは。'78年。
吉住
石坂さんたちとは三代、差があるんです。
石坂
大体、二、三年平均くらいで替わっていくから、その間にもいろんな人が入ったり出て行ったりしてるんですよ。マンガ部はみんな、独立してマンガ家になるのが目的だから、手塚プロで修業をするみたいなところがあるんですね。先生のお手伝いの仕事で生活費になるんだけども、自分のメドが立ち次第、どんどんやめていく--で、一回引いて、またあとでOBとして手伝ったりという風になっていくので、入れ替わりが多いんです。
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OBという言葉があること自体面白い。
吉住
他ではないんでしょうかね。
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やっぱり学校みたいな感じですね。
石坂
ああ、そうですね。
吉住
あー、そうか、僕はずっと学校だと思いこんでいました(笑)。
石坂
私も「学校に行ってるのに給料もらっていいんだろうか」って感じで(笑)。
堀田
吉住くんたちの時代ってさ、先生は何をやってたの?
吉住
作品ですか。『アドルフに告ぐ』と『陽だまりの樹』ですね。あとはアニメとか。
高見
ああ、『アドルフ』やったの。
堀田
『アドルフ』って週刊だっけ?
吉住
そうです。週刊10ページ。
堀田
で、あとは『陽だまりの樹』でしょ?あれは隔週じゃなかったっけ。
吉住
そう。それからね、『ブッダ』の終わりと『(火の鳥)太陽編』の最初の頃とか。
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では、少し話題を戻して、入社時の感想を話して下さい。
吉住
そうですね。えーと、初めで手塚先生に会えたのは、入社して三日目ぐらいだったんですけど、やっぱり「あの手塚先生に会えるんだ」と思うとすごく緊張してて、で、作品とか見ていただいて「うん、キミの主張はナニナニだねえ」とかね・・、何ていうのかな、本当に優しそうな顔でね、「これが手塚先生なんだ!」と感動したんですよ。ところがね、もうその次の日、ちょうど先生が旅行に行く間際だったらしくて、すごく慌ただしく怒ってるんですよ。何だか、いきなり不機嫌なんです(笑)。
石坂
いきなり別人なんだよね(笑)。
吉住
そう、いきなり別人。昨日会った先生と、どうしてこんなに違うんだろうってとにかくびっくりしました・・・。
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もともと先生の作品は、どのあたりを読んでたんですか?
吉住
やっぱり、僕ぐらいの世代だとタイムリーなものは『ブラックジャック』とか『三つ目が通る』あたりから入って、それからだんだん過去の作品に遡っていくみたいな感じですよね。先生の短編は特に好きで、『空気の底』とか『ザ・クレーター』とか、あの辺りを読み出したら、ああ、すごくいいなァと思って。
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なるほど。で、入社してすぐにそういうことがあったわけですね。何を怒っていたんですか、先生は。
吉住
そうですね、言っていいのかどうか・・。
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まずそうだったら、後で削れますから。
吉住
そうですか。要するに、入れ歯がなくなったらしいんですよ。「入れ歯がないと、ボクはもう行きませんっ!」って。旅行に行かない、と。
石坂
えーっ、よっちーの時もそうだったの?
堀田
オレたちの時もあったよ。
高見
あったねー(笑)
吉住
それで、みんなで探してました。もうピリピリしながら。僕はもう、ただボーゼンと立ってましたね。「何なんだ、この雰囲気は」とか。異様でしたよ、みんな青ざめちゃっててね。
石坂
んー、あるある。
堀田
まったく同じだね。会社全員が探してたんでしょ。
吉住
うん。ゴミ箱とかも全部探すんです。でもないんですよね。先生は怒鳴ってるし。「もうあれがないと、旅行に行けません!」とか「もう、どうにかして下さい!松谷氏」とか(笑)。
堀田
それ、それ。
石坂
同じことがあったね。入れ歯だけで何回かあるんですよ。先生が原稿に"マルつけ"(OKサイン)を始めてて、一番忙しい、原稿がワァーってある時にね、みんながソーゼンとなって、原稿そっちのけで立ちあがってね、ゴミ箱全部ひっくり返しちゃってるわけ。その時は、確か、先生がテレビ出演する日だったのね。で、あとで聞いたんだけど、その時先生は口を手でかくしておりてきて、事務所にね「もうこんな顔で、テレビなんか出れませんから、断って下さい」とか言ったの。で、マネージャーが「生放送だし、断れないから、マスクでも買ってきますからなんとか出て下さい」って。
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何で入れ歯がなくなるんですか?
吉住
やっぱり置き忘れるんですよ。メガネとかもね、よく置いていっちゃうし。ベレー帽は、さすがに置いていきませんけど(笑)。
堀田
置いていかないね。
石坂
うん。取ってる時はあってもねェ。
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そうですか。では次に、堀田さんの入社の動機、それから手塚作品だとどの辺りが原体験なのか・・・そのあたりを。
堀田
まず『鉄腕アトム』じゃないですかね。アニメのって言うより『少年』に載ってたマンガのアトム。あの辺りですよ。
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手塚ファンの王道ですね。で、入社の動機というのは?
堀田
大学が工学部だったんですがね、ムリして工学部に入ったもんで追いついて行けなくなったんですよ。で、もうやめるしかないと思ってたところで突然、「マンガがいいんじゃないか」っていう感じになって、描いたんです。そしたらちょうど『少年チャンピオン』の『ブラックジャック』のワク外のところに「アシスタント募集」って それで応募したんです。
石坂
でも、手塚先生のすごいファンだったんでしょ?
堀田
そうそう。それまでは、手塚先生の単行本を集めるのが趣味だったんですよ。他のマンガは全然読まないで。
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けっこうマニアックなファン?
堀田
いや、マニアックというんでもないんです。手塚先生の作品は、量的にはそんなに知らないんですよ。だから、本になってみんながある程度知っているようなものを買っていたんですよね。だから手塚プロにも"入っちゃった"という感じでしたよ。
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今、おいくつでしたっけ?
堀田
33です。
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とすると『少年』の末期の読者。
堀田
そうですね。末期、そうでしょう。だから週刊誌も出ていて『ジャンプ』が出始めた頃かな。
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だとすると本当の末期・・・。『少年サンデー』で『どろろ』とか『バンパイヤ』とかは読んでますか?
堀田
実は読んでないんですね。だからマニアでもないんですよ、僕は。『アトム』は小学三年ぐらいから読んでましたけど、それからは少し空いてて。で、入っただけで(笑)。
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で、入社して、どうでした?
堀田
入って初めて先生に会ったのが・・・いつだっけ。えーと、まず手塚プロの制作室っていうマンガの作業をする部屋があって、そこがあいた時、先生が暇だと会えることになるんですよね。その(会う日を)あらためなかった?一回面接して、いついつに来てくれなんて?
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あ、高見さんも同じ告知で入ったんですか?
高見
この三人(石坂・高見・堀田)は、まったくそうです。同じ時に『チャンピオン』を見て。
石坂
だから 私たちは面接の時に初めて顔を合わせて、先生に会ったのは、仕事が始まって2、3日後だったかなあ。最終段階で私たちのマンガを見て「この五人」っていう風に決めてくれたはずなんですけどね。
吉住
まず初日に(先生に)会えるってことはないですね。必ず何日か後ですよ。
石坂
ちょうど締め切りがあいた時に、先生があいさつしてくれたりとかね。
堀田
その時に、だから自分の作品と名前を言って、先生にあいさつをするんです。
アドルフに告ぐ (1)
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stars戦後史の総括

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starsああ、夏貸しや、じゃないでしょ!懐かしや。
stars空を越えて ららら?
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マンガ教室

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高見
それから"マンガ教室"。あれも最初の頃に、二回ぐらい。
吉住
先生ね、たまに気が向くと"マンガ教室"っていうのを開くんですね。
石坂
新しいアシスタントの子にはね、ちゃんと一回丁寧にあいさつしてくれて、そのニコニコ顔の時に、まったく思いついたように"マンガ教室"っていうのをやってくれるんです。とにかく新人っていうのはみんな舞いあがってますから、「先生が私たちのためにこんなにやってくれてる!」なんて言っていて、でも先輩たちとかチーフとかは割と冷ややかな感じで(笑)、「また先生の気まぐれが」なんて感じがあるのね。で、私たちには「続き、明日やります」なんてニコニコして一時間ぐらいで行っちゃうんだけども、もうその後は二度とやらない(笑)。
吉住
やるとしても一年後とかね(笑)。
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その時は、どんなことを教えてくれるわけですか?
石坂
大きいケント紙を出して、マンガの描き方の基本、編集部への持ち込み方とか、もうニコニコしながら。
吉住
長編の描き方、短編の描き方・・・。
高見
ストーリー構成の基本は、とか。
石坂
そうそう。大きい木を描いてね「根っこのところには・・・」とか。
堀田
あと、8ページから16ページをまず描きなさいって。一番読みやすいページ数。
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カッパブックスで手塚先生が出した『マンガの描き方』にありましたね、それは。
吉住
あれに近いですね、大体。
石坂
よく考えると、今の編集から見ると少しズレてること言ってたかも知れないんだけどね。
堀田
あと、長編が得意な人は短編が描けないとか言ってて、白土三平のことを言ってるのかなァなんて思いながら(笑)よく批判してましたから。
吉住
長編と短編の描き方は完全に違うっていう考え方でしたね。長編はドストエフスキーだ、とか。
堀田
でも、短編を描ける人は長編も描けるとは言ってた。
高見
あ、それ言ってた。
吉住
そういえばドストエフスキーの『罪と罰』は必ず読めって言ってませんでした?
高見
それは聞いた覚えがなかったね。
吉住
「ボクの長編の基本は『罪と罰』なんです」ってハッキリ言ってたのを覚えてるんですよ。
堀田
ああホント。
石坂
あれ、それは聞いた気がするなァ。
吉住
必ず、大きな川があって、その端々に色んなエピソードがあって、それをつないでいく、それが長編の基本だと。『罪と罰』はお手本のように、そこんトコがよく書けてるって言ってました。
石坂
ああ、あと何かさ、編集部に持ち込む時にはね「明るくしていきなさい」とか最初に言わなかった?「暗いと、つげ義春みたいになります」って(一同爆笑)。
堀田
あー、たぶん言ったと思うなァ。
石坂
つげ義春って名前出たの、私はすごいショックでさ。つげさんのすっごいファンだったから。それからいくつか憶えてるのはね、マンガ描く時にはそこの雑誌の読者の対象年齢よりも三つ四つ低く想定して描けって言われたんです。私、それはすごく当たってると思うんだけれども、あんまり読者の対象を高くしてダメになった例が、'70年の『マガジン』だって言うんですね。私は'70年の『マガジン』もすごく好きで、評価もしてたのに、先生は全然あれをかってないんだなァって、またガク然でしたね。
マンガの描き方―似顔絵から長編まで
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stars手塚治虫の花伝書??巨匠の驚くほどの謙虚さが感じられる本
stars漫画を書く意義が語られています
stars学校の先生も読んで欲しい!
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stars漫画を超えて

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罪と罰〈上〉
4003261356ドストエフスキー Fyodor Mikhailovich Dostoevskii 江川 卓

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starsポルフィーリィはまだか
starsスラスラ読める
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stars歴史的傑作!!!私の世界観を変えた小説。また、読書の素晴らしさに気づかせてくれた小説

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紅い花
4091920225つげ 義春

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stars男的視点のロマンチシズム
starsこれが、つげ義春の世界です
stars『李さん一家』
stars永遠のおかっぱ少女が旅へといざなう

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写真と同じ

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少し話題は戻りますけど、高見さんの場合の応募の動機というのは?
高見
私は、どっちかって言うと、物心ついた時から手塚マンガというよりも少女マンガの方にのめりこんでたんです。 ずーっと『マーガレット』とかそっちの方を読んだり、マネして描いたりとかしてて、「少女マンガ家になるんだ」って言ってたんです。それで短大に入って、いよいよあとがない--就職か、マンガか(笑)。それで、あー、どうしようって考えてる時に、友達が「そう言えば手塚プロで手塚治虫のアシスタント募集の記事を出してたよ」って聞いたんで、その時にちょうど持ち込みするつもりで描き上げた作品が一本、たまたまあったんで「よし、じゃあ力だめしだ」っていうんで送ってみたのが・・・・あの、入ってしまって(笑)。そのまま、こっちの、こういう流れになっちゃったんです。
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じゃ、手塚体験が強烈で入った、というわけではないんですね。
高見
だから、手塚治虫っていう人は、もう自分の希望するマンガ家のその上っていう感じの人なので(笑)。
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伝説とか、神話的な人。
高見
そうですねェ。もう何か、雲の上の人っていう感じだったから、合格通知が来た時には本当に「えっ!」っていう感じでね、だから入ってもしばらく「ウソみたい」って(笑)。今考えれば、もっと冷静にしっかりやればよかったって、そればっかりですね。だから手塚先生のマンガも、手塚プロに入ってからあわてて読んで。
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会社の印象はどうでした。
高見
そうですね。割と会社っぽいんだなって、やっぱり思いましたね。マンガのアシスタントっていうと、徒弟制度みたいな感じなのかなァって思ってましたからね。それが"社員"で、ボーナスも出るとか聞いて。
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保険もあるんでしょう。
高見
ええ、保険もありました。
吉住
あの、「アシスタント募集」て言うでしょ。だから僕は、手塚プロの会社とは別のもので、そういう私的なスタッフなのかなと思ったんですよ。それが入ってみたら社員だったんですね。
高見
それでね、女子は徹夜はできないきまりになってたし。労働基準法か何かの関係ですけど、あー、こういうもんなのかって(笑)。その辺のギャップはありましたね。
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先生の最初の印象というのは?
高見
やっぱり何か、舞いあがってたから、「ああ、写真と同じだっ」(笑)そういう感じでしたね。
堀田
いやあ、オレもそう思ったよ(笑)。
高見
私、ずっと顔しか見たことなかったからね、「あー、胴体がついてる」って(笑)。
石坂
アハハ、のんきなヤツ。
高見
正直、そういう感じだったんです。第一印象、信じられない・・・。
堀田
ははは、変わんないねえ。
高見
すみません(笑)。
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じゃ、いよいよ石坂さん。
石坂
私はもう、手塚プロに入るしかないと、もうずーっと決めてました。中三の頃から、手塚先生のアシスタントを絶対にやってそれからマンガ家になる---って本当に決めてたんです。信じて疑わなかった。それで、高校出てすぐにでも(マンガの)勉強したかったんですけど、仕方なく地元の学校に行かされたり、上京のすることがなかなか許してもらえなかったりで悶々としてたんです。で、大学も終わりに近づいて就職の時期に、アシスタント募集を見て「もう絶対!これしかない」と思って・・・・入ったんですね。だから、本当に、先生に愛人になりたかったんです。
堀田
わめいてたもんねェ
石坂
ホント!ほんと???に好きだったんですよ。ものすごく好きで。
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作品としての手塚体験は『どろろ』とか。
石坂
いえ、もっと前から。幼稚園ぐらいから見てたんです。ただ、途中一回離れてるんですね。昔の月刊誌--『冒険王』や『漫画王』とかは読んでいて、それから小学校時代に一度離れて、で中学に入ると今度は青年誌のを見るんですね。『火の鳥』とか『きりひと賛歌』とか。それでもう一回ショックを受けて・・・・。何か、子供の頃はね、不思議だったんですよ。あの『リボンの騎士』の新連載って憶えてるんですね。『なかよし』に連載した時の。
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あれは『少女クラブ』じゃない・・・・?
石坂
その、あとですね。また新しく始めたんです。その最初の回の見開き四色は、ものすごくきれいな、天使がいっぱい並んでいて、雲の上では神様がハートを飲ませてっていうところで・・・・その絵を見ながらね「これがアトムを描いている人と同じ人が描いているんだよ」って母に言われたのを憶えています。
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アニメは見てました?
石坂
アニメは見てますよ。やっぱり。初めてテレビでアニメをやり始めた時の、洗礼受けちゃってるから、もうそれは鮮烈に憶えてる。ただ、やっぱり自分がマンガを描きたいと思ってたんで、アニメは、まァ全然、別ものだなァという感じ。
堀田
何でだろうね。不思議だね、あの当時そんな風に思えたのって。オレもだけど。今でもホラ、おばさんとかおじさんに「マンガやってる」って言うと、アニメのことと勘違いするじゃない?
石坂
あー、そうだね。うん。
堀田
その違いをオレたちは何でかぎ分けたんかなって。
石坂
そうだね。アニメもマンガも知らない人にとっては、誌面に印刷されてるのも絵が動くのも同じ不思議さだからじゃないかなァ(笑)きっと。・・・で、私たちの場合はもう"こっち"のやり方しかできないな、とわかるから別ものって思えるんじゃないかな。
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・・・・で、まあ手塚先生一筋だった。
石坂
本当に一筋だったんです。だから、入社する前は、さっきも話しに出たけど、マンガ家とアシスタントが同じ部屋で仕事をやって、「先生、今日は具合いいですね」なんて風に話をしたりね、仲良くなれると思ったんですよ(笑)。それが、本当に数回しか会えなくて、ゆっくり話したこともないくらいでね。ともかく先生の器は、そんなところでやってられないっていう・・・そのことがわかってショックでしたね。高田馬場のビルの2階の全フロアが手塚プロで、マンガ・アニメ・事務とかにわけてある。で、そのビルの4階のマンションに、先生が一部屋借りてたんですね。そこで先生が自分の作品を描いてて、先生に呼び出されると指定をもらいに行って、また原稿を置きに行って・・・っていう風にやってたんですけど、だから2階の部屋は編集者とマンガのアシスタントが一緒にたむろしてるんです。
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その、4階の部屋っていうのは、先生専用の・・・。
石坂
そうです。禁断の部屋。
「火の鳥」全巻特別セット(ケース入り)
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stars人間が故の愚かさ、もどかしさ...医学界編
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気づかい

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石坂
こないだ先生が亡くなった時に思ったんだけどね、例えば誰か、マンガ家として先生に会っている人たちって「先生は本当に腰が低くて、パーティーとかで会っても丁寧で優しくて、謙虚に話をする」ってみんな感動してるでしょ。これも、本当なんだけどね、もう次の瞬間、頭の中がガラクチャになることがあるのも本当なのね。例えば、今ここで誰かファンの子がいっぱい来てくれて、先生もニコニコしてサイン色紙描いてあげたとするじゃないですか。で、「この子にいいものを描いてあげるから」って手間をかけるのも本当なんだけど、次の瞬間に「なんでファンの子たちをこの部屋につれて来たんだ」って怒り出す--これも本当なんですよ。たぶん先生のそういうところってのは、内輪の人しか見てなかったと思うんだけど。編集なり、アシスタントなりしか。
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しかし、今回調べた過去の記事の中でも、そういう矛盾した部分を悪くとって書かれているものもあるんですよ。でも、それを集めてみるとわかるのが、先生の邪心のなさっていうか。その時の自分に忠実にするあまり、バラバラに見えてしまう、というような。
石坂
そうそうそうそう(笑)。子供が本当にそのまま大人の役割をやっちゃってるって感じなの。
吉住
純粋な方だったですよね。
堀田
で、他人のことなんか、本来そういうタイプの人だと全然考えないわけじゃない。その上、すごく忙しいでしょ。でも、意外と考えてくれてるところもあるんですよね。
高見
中国に行った時、アシスタントにもお土産買って来てくれたの、ね。
石坂
あ、私はもういなかった時だ。人民帽をみんながもらったってやつでしょ?
高見
そうそう。
石坂
で、あきおくんだけもらいそこねて。
堀田
うん。その時は、むこうで『アトム』の視聴率が良くて、日中友好か何かで行ってた時なんだけど、かえってきて、お土産で人民帽をみんなにくれたんですよ。僕はその前の日にたまたま徹夜だったんで、遅れましてね、出社が。で、みんなはもらってるんだけど、帽子、もらってないんですよ、オレだけ。その頃って、まだ人民帽は珍しいものだったんですよね。欲しくてしょうがなくてね。でね、隣の部屋が事務所なんで、大体、先生が来てるとわかるんですよね。ああ、いるな、と思って、友達に「オレだけ人民帽もらってないんだよ」って言うんです。先生にわかるように。で、これはあいつだなってわかるんです。そうすると先生は4階に上がってね、内線で電話して来るんですよ。まず、原稿の指定を伝えて、あの人物のむこうにイヌを描け、とかね。で、それを伝えたついでみたいに「じゃ、堀田くんに上にあがるように言って下さい」って。
石坂
わァー、どうした?
堀田
で、僕が原稿持って4階に行くとですね、「堀田くん、これはボクのお土産です」って(笑)。で、人民帽をくれて僕は「どうもありがとうございます」って言って、下に戻ろうとすると「いや、もう一個あるんだよ」って言うの。何かと思ったら、人民帽って星がついてるでしょ。あれを「君だけにはもう一個星をつけてあげる」(一同爆笑)。
石坂
かわいー!
堀田
それでね、「あー先生ってホントいい人だなァ」って(笑)。
石坂
気をつかってるのね。
堀田
でも、他にもいっぱいあるよね、そういうの。あの、僕が小学館の学年誌でやり始めるんで、手塚プロをやめるっていうことになった時にね、先生はちょうどプリンスホテルかどこかでカンヅメになってたんですよ。で、先生は鏡の前の化粧台みたいな机で描いててね、オレは先生の背後にあるソファにすわって待ってたわけ。そうすると先生がパッと顔を上げて、それからクルッとこっちを向くんだよ。でね「堀田くん、もうすぐやめるんだって?」「ハイ、そうです」「食っていけるの?」って言われて「一応その、学年誌に描くことは決まってるんですけど、食って行けるって程でもありません」「そうですか、じゃあ社長に言って嘱託になってもらおう。時たま来てもらってね、給料が出るようにしましょう」って約束してくれたんですよ。「先生、ありがとうございますっ」って言ってね、その時は本当にそこまで気をつかってもらって、先生はさすがだなァ、こんなに忙しくて、カンヅメになってる時までアシスタントのことを思ってくれるんだなァと思ってね、感動したんですよ。そういうの、なかったでしょ?
石坂
うん、ない。
堀田
でね、あとでチーフの福元さんにさ、こういうことがあったって話したら、「フフフフ」って鼻で笑われて、何で笑うのかなァと思ってたらね、そのあと社長のところに言いに行ったら「そんな話は聞いてない」って(笑)。
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その場で言ってみただけ(笑)。
堀田
そう。先生の"気持ち"だけ。
石坂
気持ちは本当なんですよね。
堀田
何にも手を打たないの。
石坂
言ったときは本当にそうする気だけど忙しすぎるから。
吉住
誠意は本当にあるんだけど。
堀田
そう、それがでかくなると、例えば僕たちの代はね、一回も旅行に行ってないんですよ。社員旅行。そういうことになる。言うには言うんですよ。機嫌がいい時なんかにはね、バッと入って来て、発表するわけ。
石坂
「みなさん!ちょっと聞いて下さい。はい、そのままで聞いてください。今、社長と話しをしていたんですけど、今月中に社員旅行をします」って言うと、みんなが「オーッ」ってもりあがるの。
堀田
するとチーフが「イヒヒヒヒ」(笑)。
石坂
「みんな、先生の言うことをあんまり信用しないように」って(笑)。
堀田
僕たち、初めてだから。
石坂
すごい喜んじゃってね。みんな、水筒買おう、とかさ、いろいろ(笑)。
堀田
だから、福元さんはあまりにもヒネてるんじゃないかって言ってたんだよね。それが・・・。
高見
大当たりだったよね(笑)。
堀田
それが、二回なかった?
石坂
あった。二回あった。
堀田
二回目もやっぱ、騒いでしまった(笑)。今度こそ本当だろうと思って。でも、僕たちの次の代から行くようになったんでしょ。
高見
行ったね。
堀田
で、前の代も行ってるからさ、ちょうど僕たちだけ行けなかった。
吉住
だんだん信じられなくなってくるんですよね。僕たちの代の時も「今週中にマンガ教室開きます」って言って、やらなかったりね。だから「ああ、もう、当分やらないだろう」って、福本さんの心境がわかっちゃう・・(笑)。
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石ノ森章太郎さんの仲人をひきうけておいて、式に行けないって言い出したり。
高見
えー、そうなんですか?
石坂
でも、先生に仲人頼む方が無謀ですよね(笑)。
堀田
それを考え合わせても、やってもらいたいって思ったんでしょうね。
石坂
そうね。--そう言えば、私が会社やめる時にね、一応送別会みたいなことをやってもらって、先生も珍しく一緒にいらしてて、で、何かお酒ついでもらったりとかして・・・・でね「福田(石坂)さん、あのね、すぐに結婚しちゃいけませんよ。すぐに結婚すると、S(某少女マンガ家)みたいになるから」って。そんなこと言っちゃっていいのかなァなんて思いながら、私もまだ、先生のはなむけの言葉だからと思ってね「わかりました」って。もう一所懸命マンガを描きます、なんてずっと思ってたんですね。そうかァやっぱ男は断たなきゃダメなのかァなんて思ってたわけ。で、二年ぐらいたって会社に遊びに行ってね、先生とたまたまバッタリ会えて少し話したらね「福田さん、まだ結婚してないの?」(笑)だって「先生、あの時言ったじゃないですか」
堀田
その時は、本当にそうだったんだ。
石坂
そう、ほんとに誠意を持って言ってくれてるんです。
吉住
でも、男の人には大体決まってるみたいですよ。「絶対、男は30すぎにならないと結婚しちゃダメだ」って。「まだマンガに専念しなさい」って。でも実はご自身が30すぎに結婚したかららしいんですよね(笑)。
石坂
さしたる根拠はないのよね(笑)。
堀田
でも、僕が一番、手塚プロってすごいなあと思ったのはね、空き時間にはアシスタントにオリジナル作品を描かせる時間を作ってくれたこと。
石坂
あァ、それはね。
堀田
これはもう、他のとこは絶対ないもん。
石坂
うん、そうなんです。自分のマンガを。
高見
「どんどんオリジナルを描いて、早く独立しなさい」って言われたの。
吉住
言いますね。
堀田
いつまでもいると逆に怒られちゃうんだよね。
高見
うん、そんな風に言ってもらえるなんてって、思って。
石坂
やっぱり学校だったよね。
高見
うん。どやされるの。
堀田
時どきね、会社でアシスタントが自分の描きかけの作品を放り出したままメシ食いに出ちゃうこととかあるんですよ。で、先生がそれを見てた時があって、けっこう批評してくれるんですよね。
石坂
へえー、机の上を見て?
堀田
うん。だから僕は動物マンガ描いてて「動物マンガ描いてるのかい」なんて言われて「動物マンガは(絵が)白っぽくなるから、ベタをいっぱい使いなさい」とかね。
石坂
へええ。
堀田
あと「キミは石ノ森章太郎に似てるね」とか、何かそういうようなことをよく言われたね。オリジナル作品を描いたりしてるやつに対しては、非常に優しかった。評を書いてくれたり。
吉住
そうですね。アシスタントに対する姿勢って、そういう風に表れていましたね。
堀田
うん。で、僕たちの先輩・・・すぐ上の人たちがあまりオリジナルを描いてなくてね、逆に僕たちは自分の作品描いてた分、会社の仕事を全然できなかったんですよね(笑)。よく先輩たちには文句言われた。
石坂
でね、私たちの時は不思議と女の子が多かった時期で女の子はね、会社からは無能だって感じで言われていたんですよ。徹夜をさせられないし、徹夜をしないとそんなに背景ものなんて上手くならないし。
高見
段々、ひらきが出ちゃうのね。
石坂
そうそう。男の子の方が上手くなっていって、そうなると男の子の方に自然と仕事が行くようになるっていう悪循環(笑)。それで女の子の方はいつまでたっても・・・・っていう感じになってね。ただ、先生は入社させる時にはそんなこと無視でね、入れてくれたんだけど。会社からは「女の子ばかり増えちゃって」なんて言われてね。

冷や汗

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石坂
先生の前でさ、すごく肝を冷やしたことってない?
堀田
いっぱいあるよ(笑)。
高見
うん、ある。
石坂
のぶ(高見)クンあるの?全然、なかったんじゃないかと思ってた。
高見
えっ、私・・・・(笑)。あまり言いたくないのが・・・・あるけど。
石坂
気になる(笑)。聞きたいなァ。あ、私あれだけ知ってる。のぶこ(高見)が『ユニコ』の原稿にさあ、赤福の"あんこ"こぼしちゃったの(笑)。
高見
あれはね、見つかんなかったの。
堀田
あれはね、身内だけだよね。
高見
あのね、"マンガ教室"の時にね、居眠りをしたの(笑)。
石坂
ホント!?信じられない。先生がやってる時に?
堀田
それは気づかなかったなあ。
高見
私、一番先生寄りの席で、おそらく気づかれたんじゃないかなァ、先生には。
石坂
何でまたそんな時に(笑)。のぶこらしいけど(笑)。いいね、テンポが独特だから。
吉住
たぶん、みんな。ビビッったエピソードっていうのは一番多いですよ、きっと(笑)。
高見
チーフの福本さんの、あれ。仕上がった時にね、原稿が一枚足りないからって。
石坂
ああ、ちょっと探してって言って、みんなでバタバタ探してたんですよね。
堀田
先生が使う画稿紙は薄いからね。コピー用紙とまったく同じなんですよ。
石坂
それでいつもコピーとまぎらわしいからって、コピーは使い終わったらすぐやぶいて捨てるようにしてたんです。で、まさかと思って、そのゴミ箱を見たら原稿が八つになっていてね(笑)。チーフが間違えて・・・。
堀田
初めてだったんじゃないかな。
高見
もう、顔がやっぱり・・・・。
堀田
ひきつって・・・・(笑)。
石坂
もう、ねー。すごいあせって直してね。堀田くんとわたべくんで、セメダインでのばして・・・本当にキレイに貼ったよね。ほとんど元通りみたいに。
高見
ごちゃごちゃになってなくて。
吉住
先生は何も言わなかったんですか?
石坂
怒ったと思います。直接私たちは見てないからね。
堀田
オレもやぶいたことあるんだよ。あの、アニメの『火の鳥』の時。あれの背景をやぶいちゃった(笑)。
石坂
ああ『火の鳥2772』だ。
堀田
そうそう、あの時。「こういうものを描きなさい」みたいな、見本で渡された背景見て、星を描くんだけどさァ、何か、いらないものと重ねてあったのかな、それで。
石坂
時間のかかる背景でね、あの、水彩絵の具でずーっと色ぬってあるやつで。
堀田
まず、隠しちゃってさ(笑)。トイレに持ってってやぶったことを確認して、そういうのを直すの一番上手いのは、まず資料室じゃない?で、浜口さんがいてさ、なんとか修正して下さいって言って。でも「こりゃ無理だ」って言われて(笑)。で、チーフに言ったんだよ「スミマセン、僕、やぶってしまいました」って。でも、あの頃って、要するに劇場用の映画をやってる時だから・・・先生も一言「みんな、死ぬ気でやって下さい」なんて言ったんだよね(笑)。みんなもいきり立ってるわけ。あんな空気の中で「やぶってしまいました」なんてのんきに言えないじゃない、先生には(笑)。それで、アニメの部屋をバッとあけたらさ、ちょうどうまく先生が座って指揮とってたんだ。で、チーフが言ってくれたんだよ「やぶってしまいました」って。そしたら一言「バカ!!」(一同爆笑)。それだけで済んだけど。でも、結局その背景はあんま使わなかったんだ(笑)。
石坂
ハハハ、怖かったでしょう。
堀田
すごく怖かったよ。でも、先生の「バカ」の一言ってすごかったよね。あの一言で終わっちゃうんだよね。
高見
Uくんも言われたでしょ。落ちこんでたもんね、しばらく。
石坂
あの、要するに4階の先生の部屋っていうのは、もう絶対に先生しか入れないんですけどね、いつも、その玄関のところだけで「失礼します」って入って、そこに先生がいなくて原稿が置いてある時は、それを黙って持って来る。下から持っていく時は、それを置いていく。あとは先生がそこに出て来て指定をする場合もあるけど、用が済めばすぐそこで引き上げる・・・もう、余分なことは全然言わないんですよ。で、それがしっかり徹底されていない新人が初めて原稿を取りに行ったんですね。で、玄関で「失礼します」って言ったら、先生が奥の部屋で「どうぞ」って言ったらしいんですよ。で、彼はそこで引き上げなきゃいけないのを知らなくて、スタスタって入ってっちゃって、そこで「失礼します」って言ったのに、また「どうぞ」って言うもんだから、襖をガラッと開けて(笑)。
吉住
禁断の襖
石坂
そしたらやっぱり「バカ!!」って(笑)。もうビックリでね。すぐ電話があってね「誰ですか今のは!」って怒られちゃったらしいの。のぶクンは、しかられたことはない?
高見
私はァ・・・・大体こんな調子だから(笑)。
吉住
優等生だったんだなァ。
堀田
いや、女の子は大体、4階に上がる機会が少なかったからね。
石坂
そうそう
高見
だから、あんまり憶えてもらえなかったっていうのもあるなァ。
堀田
でも、オレ今でもあれだよ・・・去年、会社に行った時にさ、先生が入って来たら隠れちゃったよ。怖くて(笑)。
---
ピリピリしてた?
堀田
いや、じゃましちゃいけないと思うんですよ。先生って、ムダが嫌いな人でしょ。セカセカしててね、先生は足音が独特だからすぐわかるっていうくらいで。
石坂
ただ話すだけにしても、普通の人の回路よりずっと早くてね、かみ合わないの。自然にわかってきたことなんだけどね。先生が誠意を込めて話してくれても、こちらがどんどん先生の足手まといになってる気がしてくるのね。
吉住
会話してるだけで、足手まといに思えてくるんですよね、こっちが。
石坂
もう頭の中では次の仕事のことを考えてるんじゃないか、とかね。落ちついて話せる感じじゃないの。・・・だから、私、先生が気をつかって「やあ、やあ」って言ってくれるのもわかるけど、それも迷惑になる気がして、何か隠れたくなります。
高見
うん、あわてて帰って来たり。
石坂
もう今日はいいですから失礼しますって感じになっちゃう。
堀田
でも、昔はまだ、そんな感じじゃなかったらしいけどね。
石坂
前、聞いたのね。やっぱり同じ部屋でアシと仕事してた時ってもう少し、一緒に生活するって感じで・・・。
堀田
先生がいるところとアシスタントの部屋がつながっててね、アシスタントの部屋が何か、怪獣ごっことかやってたらしいんですよ、先輩たちが(笑)。それがあまりにうるさいんでね「すみませんが、もうちょっと静かにしてくれませんか」って言うんだって(笑)。
高見
ヘェー、先生が。
堀田
それでもうるさいっていうんでね、何か、お金・・おこづかいを渡して「どっかへ遊びに行ってくれ」って(笑)、頼みこむというね、そういう世界。だから、ちょっとはねェ、親密な関係があったんだ。
吉住
映画に一緒に行ったり、食事したとか。
石坂
ああ、あったらしいよね。そのかわり仕事の忙しい時は、もっと大変だったのかも知れないけどね。
堀田
でもさ、オレたちの頃が一番忙しかったんじゃないの、ハッキリ言って。
石坂
ああ、アニメとマンガで。
高見
私たちもセル塗ったもんね。
堀田
塗ったよ。背景まで描いたんだもん。
高見
いたずら描きまで塗ってた。
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禁断の部屋

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---
禁断の部屋というのは、いつからそうなったんですか?
高見
私たちが入った時には、もう既に、ね。
石坂
手塚プロが高田馬場に移ってからああなったと思う。その前の富士見台とかの時は・・・先生だけの仮眠室とかはあったらしいんですけど、普段はアシスタントと同じ部屋で一緒にやってたらしいんです。で、馬場に行ってから、もう編集者とかに関わる作業は、そこを全部マネージャーがシャットアウトする形で、先生にとってはすごくやりやすい状態だと・・・・。だから、私たちが入る三、四年前・・'74か'75年からじゃないかな。で、後にも先にも一回だけなんだよね、あそこに入ったのは。
---
あ、みんなで入ったんですか。
石坂
先生に呼ばれてね、「本箱の整理をしたいから、アシスタントみんな上げて下さい」って言ってね。私たちもすごく興奮して「あァー初めては入れる」なんて言ったんですね。普通のマンションの2Lか3Lぐらいの形なんだけど、もう、すごいの。引っ越して来た時にね、そのままバサバサッと資料用の本を投げこんだままの形で、三、四年もそのまんまだった感じなの。それを新しく買った本箱に入れる作業だったんだけど、本当にね、本を放り込んだだけっていう角度で。
堀田
レコードもあれだよね、ジャケット入らないで・・・。
石坂
もう、丸い盤がむき出しのままでみんな重なってて。もう、全然気にしてないの。それを全部ほどいていくと、虫とかがいっぱい巣食っちゃったりしてるの。くもの巣とか、もうすごいんだけど、そのむっちゃくちゃの中にね、ディズニーの原画とかがあったりするんですよ(笑)。
吉住
メビウス(フランスのマンガ家)の色紙みたいなものとか。
堀田
あとセル画とかね。
石坂
もう昔のやつとかね。先生がよく『手塚治虫のすべて』に出してるような、鉛筆画で描いた・・・小学生の頃描いたヒゲおやじのマンガとかね。
---
そういうものがある。
石坂
あるの。もう、マニアが見たらもう・・・・。
堀田
楳図かずおが中学生ぐらいの時に持ちこんだ絵とかね。
石坂
そう。「これ、誰の絵かわかりますか」って。
吉住
僕らの時にあったのは、大掃除か何かしてね、下(2階)にダンボール箱をボンッとか持って来て「これもういらないですから、処分して下さい」って言うんです。で、あけてみると、何だか宝の山なんだ、これが(笑)。
堀田
それはきっと、先生としては「もしほしいならあげるよ」みたいな・・・。
吉住
ああ、そういう感じでしょうね。
石坂
捨てる前にね。先生にとっては不要でも、もうとんでもないものがいっぱいあってね。
堀田
先生はわかってんだよね。4階の片づけでも、アシスタントに手伝わすと喜ぶ、とかね。
石坂
で、あの時さ、先生んちの冷蔵庫に"ゴキブリホイホイ"が入ってたの憶えてる
高見
ええ?それは知らない。
石坂
入ってたんだよ。組み立ててあって。私、ビックリしちゃってさ(笑)。
---
その禁断の部屋の冷蔵庫に、ですか?
石坂
そう。で、他には何も入ってなくて、それが不思議でね。ただ、ゴキブリホイホイが一個、入ってる(笑)。私だけしか見てないのか。じゃ、こっそり見たのかなァ・・・・。
---
先生の食事の手配とかはどうしてたんですか、普段は。
堀田
マネージャーが、一応。
石坂
あの先生の部屋はね、基本的にこちらからは連絡できないんですね。マネージャーだけ、よっぽどの時に様子を聞くだけでね。編集者なんか、一言も電話なんか入れられないんですよね。で、先生の方から「食事をくれよー」とかっていう。
吉住
でも、あまり原稿が出来てない時はね、先生が食べちゃうと、三時間ぐらい原稿が出なくなっちゃうの。
石坂
そうね(笑)。
吉住
マネージャーとかが「今、食事出すのはまずい。もうちょっと原稿が出てからにしよう」とか言って(笑)。
高見
「今食わすと寝ちゃうから」って(笑)。切実なものがありますね。
吉住
ありゃ、かわいそうだね。
吉住
チョコレートの話は有名ですけどね。
高見
あ、チョコレート好きだったんだよね。
吉住
ある時、チョコレートをみんなにたくさん買ってきて、「みんなで食べて下さい」って言ってから、先生は上に行ってちょっと仕事して、また下に来たんですよ。そしたら「あ!ボクの分がないじゃないですか!」(一同爆笑)「ボクの分もみんな食べちゃったんですか」って。
石坂
それ、有名。アハハハ。
堀田
あと、先生がアメリカに行く時ね、スーツケースが僕の仕事してるところのすぐうしろに置いてあったんですよ。でね、何かでフタがあいちゃって、中身がバラけちゃったんで見たら、チョコレートがいっぱい入ってた(笑)。
高見
アメリカにもチョコレートを持っていく(笑)。
堀田
そうなんだよ。アメリカで買えばいいのにさ。
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金持ち

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堀田
アメリカで思い出した。まだFAXがなかった頃、先生アメリカから電話で背景を指定したことがあったよね。碁盤の目を引いといて、っていう。
石坂
アメリカだったの、あれ!
堀田
アメリカなんだよ。ニューヨークかどっか。でさ、通話してる時間を考えたらさ、もう描かない方が安上がりなんだよ(笑)。
石坂
原稿料ぶっとび。・・・その、碁盤の目っていうのはね、背景の指定を電話でする時、タテヨコのマス目をとってくれって言うわけ。ファックスがない時代だから絵を、どの位置でどういう絵でって言うのって難しいじゃない。
堀田
それで「Fの6」とか言いながら指定するんですよ。それで、あとからその点をつなげると絵の指定になるわけ。
石坂
本当にねェ、一時間以上かけて。
堀田
あれはすごかったね。
吉住
そういう金銭感覚って、ないでしょう。電話でそういうことって、他にもあるしね。
---
いくらかかる、とかそういうことはあんまり気にしない・・・・。
石坂
でも、ヘンなことを気にするとこもあって・・・あきおくん、あの、お乳かくしてた話、やって。
堀田
夏にね、4階に呼ばれて、指定を全部持って上に行ったんですよ。で、先生が、一応指定するんで、バッと来るんですよ。でね、すごく暑かったんで、上半身裸だったんですけどね、先生は、こう、おっぱいを手で隠しながら(笑)こうやって出てきて、「すいません、こんな姿で失礼します」って。
石坂
先生かわいー(笑)。
---
銭湯とか、行ったことないんですかね?
堀田
ほとんどないんじゃないですか。トキワ荘の頃は行ったかも知れないけど。大阪の頃とか・・・・。
---
いや、大阪では、もう家が金持ちだったから、銭湯はないでしょう。
石坂
そうなんですか。いや、そうだな、戦前に8ミリを持ってたり、マンガを持ってたり・・・お父さんが買ってくれた、なんて言ってね。
石坂
先生のお父さんは、何をやってたんですか?
---
銀行員とか、そういう。
堀田
意外と普通のお父さんだったかも。
---
でも、趣味人ですよ。映画を子供にバンバン見せたり、マンガの本が三百冊か四百冊あったらしいし。
堀田
そうとういい環境にいたんですね。
石坂
不思議だったんだけど、それで性格が片寄っていたりとか、とんでもない偉そうなことを言ってるんだったら納得がいくんだけど、あれだけ生活感のない人なのに、ちゃんとね、何か、生活のヒダというか、弱い方の人の気持ちを描いてたりとか、機微があるでしょう。
堀田
でも、あれはもともと持ってるんだろうね。
吉住
資質だよね。
高見
仕事の話じゃないけど、先生が珍しく制作室・・・アシスタントの部屋で仕事してた時に、家から電話があって、たぶん奥さんと話してたんだろうと思うんですけど、どうやら息子さんがギターをほしがってるらしいんです。で、先生は「サイフ全部渡すと、一番高いのを買っちゃうから、必要な額を聞いて、必要なだけ持たせなさい」とかって、そういう話をしてるのを見てね、何か意外だった。何か、お父さんなんだなって。
石坂
へえー(笑)。
---
大体、結婚生活30年で、奥さんと一緒にいた時間をトータルしても、たぶん一年半ぐらいしかなかった、なんて言われてて・・・・。
石坂
奥さん、たいへんだったでしょうね。
堀田
僕たちの頃で、週に一回帰ってるか帰ってないかだもんね。
---
先生とは別の意味で、同じくらい大した人ですね。
高見
私もそう思います。
---
まだ、新婚の頃には、トイレの窓から侵入する編集者がいたり、アシスタントが家にいたりで、ずいぶん大変な思いをしたっていう話ですから。
堀田
普通の人だからね、奥さんは。
石坂
大変な人と結婚しちゃったからね。
堀田
でも、奥さんキレイだもんね。
高見
うん。ねェ。
堀田
先生が描く女の人によく似てるじゃない、ね。
吉住
でも、奥さんとして作中に出てくる時は、あんまりいい顔で出てない(笑)。『バンパイヤ』とか。
石坂
そうそう。
堀田
昔ね、先生と奥さんの新婚旅行か何かの8ミリフィルムが出て来たんだよね。それでね、制作室で映したんだよ、知らないかな。で、先生がね「これは一体なんですか?」っていうから「先生の新婚の時のじゃないですか?」って言って映したのね。そしたら先生・・・照れてた(笑)。
石坂
えー、本当に(笑)。
堀田
ゲラゲラ笑いながら。ボートに乗ってるやつとかさ。ずいぶん古いんだけど、ちゃんと8ミリ持ってたんだなァって、こっちもね。

自分で描く

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---
仕事の方の印象的なエピソードは、まだまだありそうですけど。
石坂
さっき少し出たけど、先生が4階にいると思いこんでいて、2階で話してるとうっかり聞かれたっていうこともいっぱいあったんですよね。本当に悪口言ってたりして。編集の人(笑)。
堀田
あの『ブラックジャック』か何かでね、暴走族のシーンがあったんですよ。で、そこに描かれてるヘルメットがね、昔風のやつでね。もうその頃はフルフェイスが主流になる頃だと思うんだけど、そうじゃないやつでね。で、僕とわたべくんが「こういうのって古いんじゃない?」「そうかもしれない」って言ってたらね、隣で先生が聞いてたらしくてね。それで4階から電話がかかって来てね、原稿全部引き上げて「このヘルメット、今風にしてください」って。
石坂
ああ、あったあった。
堀田
全部描き直した。切り貼りしてね。
石坂
ね、まずアタリだけあったんで「ウヒャー、これは時間かかるな」って思って、「でもまァこの絵を先生が描くわけないよ」ってアシスタントが言ってたんです。これはもう誰かに描かせるだろうし、そんなに先生の時間をとるわけじゃないから大丈夫でしょう、とか何とか言ってたらね、先生が、みーんな描いちゃったんですねェ!それを。見開きの、ものすごい綿密な人間を。本当に感激した。
堀田
あれは、そうとう時間が危なかったんだよね。
吉住
でも、そんなことがいっぱいあったね・・。僕たちがあわててね、一所懸命背景描くでしょ。でね、また時どき「先生は背景描かないんだもんな、楽だよ」とか誰か言ってると、そのあと必ず「この背景誰が描いたんだ?」「オレ描いてませんよ」「あれっ、先生描いたんだよっ!」って(笑)。
石坂
描いちゃうんですよ、本当に。要するに先生ってね、背景でも何でも、時間があれだからアシスタントに描かせてるんだけど、家を描くんでも、車でも、描こうと思ったらやっぱり先生の方が、本当に早くて上手いんですよね。すごい自負があるのよね。
堀田
でも、そうでもないんだよ。ボロボロの線の時があったよ。「誰が描いた」って言って、みんな「やりません」。で、先生だった。
石坂
背景で?
堀田
背景で。・・・いや、先生も疲れきってたんでしょうね。ふるえちゃって。"SFの円"ですからね。キレイな線じゃないといけないんですけど、あんまり思い切りなんで(笑)。人の原稿だったら誰も描けないような(笑)。
石坂
そうかァ。私が憶えているのは、キャラクターがムチャクチャに入れ替わってたとか、そういうのがあったな。私たちが入った年の夏からアニメの『バンダーブック』始めちゃったりしたから、マンガとアニメの締め切りで先生を取り合ってたような感じだったから、もうムチャクチャでね。
---
忙しさも含めて、手塚先生の仕事ぶりは、やっぱり人間業じゃなかった・・・・。
吉住
先生の生涯の中で平均で割り出すと、一週間に80枚描いて、つまり四本の週刊連載を40年間続けたことになるそうですね。作品にかける情熱も質も量も含めて人間業じゃないですよ。
堀田
ああ、今スッと思い出したんだけど、昔、Sさんっていう背景が非常に上手い人がいてね、それで、ある時、その背景の中に直角だか平行だかが入っていて、どっちか忘れたんで平行だったことにするけど、先生がね、Sさんが描いたのを見て、「これは平行じゃない」って言ったの。そしたら、Sさん・・・あの人はちょっと感覚が僕たちと違うんで、先生にもものを言えちゃうんだけど・・・「絶対に平行だ」って言い張ってね。分度器で計ったの(笑)。そしたら、1度だけ違ってた。
---
1度!!(笑)すごいですね。
吉住
僕なんかだと、一番大変だったのは、全集版の『新宝島』の話になりますけど。
---
描き直し、ですか。
吉住
ええ。当初はね、古い赤本時代のもので原画がすでにないものでしたから、赤本版のコピーをそのまま使おうという方向だったんですけどね、先生たっての希望で、まずアシスタントが赤本のコピーを全部鉛筆トレースして・・・背景から何から何までね。その時は一ヶ月くらいずっとトレスに明け暮れてましたが・・・。で、それを先生が更に全部主線をペンで入れ直したんです。本当にね、200ページ近くも・・・・。
堀田
ほう、全部先生が。
吉住
全部。だから、あれはまったく別のものになりますけどね。
堀田
とりあえず昔の絵に似させようとする努力はしたんでしょ?
吉住
すごく似せてましたね。
---
当時の赤本自体、書き版という、職人がトレースして版を作るシステムだったんで、先生のタッチとはずいぶん違ってたはずなんですけどね。
堀田
その頃って、江戸時代とあまり変わってないんだなあ。
吉住
その意味じゃ、先生初の長編作『新宝島』は、これだけの年月を経て、ようやく先生のオリジナルになったってことですよね。
---
あと、締め切りギリギリで、折りの関係で最終ページから描き始めて、ページ順の逆に入稿したことがあるらしいですけど。
石坂
へえ。でも、もっとたまげるようなこともあるもんね、やっぱり。
吉住
それだと、締め切り6時間の話が。
石坂
そうだね。『少年マガジン』の編集の人の話なんだけど、『少年マガジン』の20ページの原稿があって、もうその日の午後3時に印刷を引き上げちゃうから、それがリミットだったんだけど、その朝9時に主線が一枚しか出てなかったし、絶対にムリだと判断したんだって。もう代用原稿の印刷も済んでいて。朝の一枚も表紙だけだし、3時までに20ページアップはムリだっていうんで、編集も引き上げてたんだって。で、その編集者も寝てないもんだから、家に帰って風呂に入って布団しいてたらしいんだけど、そこへ編集長から電話が入って「手塚さんから今、電話があって、6時間あればマンガ描くって言ってるから、すぐ行け」ってことになったの(笑)。
堀田
6時間で20ページ!?
石坂
間に合うわけない、とは思ったんだけど、やるだけのことやっていたって言わないとまずいからね、あわてて行ったんだって。そしたらね、2時45分ぐらいまでに16、7枚できて来たんだって、主線が。これは考えられないよ、すごいよ(笑)。で、あと2枚か3枚残ったっていうところまで、主線がおりたんだって。でもさ、それはこれからアシスタントが全部仕上げてね、しかも印刷所に行ったら、こりゃもう3時までっていうのはムリなんだし、・・・ただ先生にしてみれば、「いや、もう僕はやるだけやりましたから」って言い出しかねないし、人質とられちゃってるようなもんだから、どう言えば先生があきらめてくれるかって考えて、頭かかえちゃったんですって。かえって困っちゃったなァと思って。そしたらね、3時5分前に、先生が上からタッタッタッて降りてきて、「やっぱりできませんでした、すみません」て言って頭下げたんだって。その時はさすがに感動したって、その編集の人は言ってたのね。だから、最後の集中力っていうかさ、最後まで捨てないでくらいつくように描く感じが、ね。
吉住
主線だけじゃなくて、ネーム入れての16、7ページですからね。
石坂
まっ白からだからね。
堀田
ネームができてれば、もう早いですよ。
石坂
で、今のは追悼会の時に聞いたんだけど、もうひとつ、三浦みつるさんに聞いた話っていうのもあってね。・・・先生のやり方っていうのは、主線描いて、背景を指定して、何度もそれを見せて、仕上げの指定を受けて、最後に先生が○(マル)をつけた段階で、ようやくあがりなんです。それで、すごい完璧主義だから、途中で「まァこれでいいです」っていうことは絶対ないわけ。ところが、一回だけ先生が○をつける前にね、編集者がかっさらうようにして印刷に入れちゃったことがあるの。私もね、当時田舎にいた高校生だったけど、その雑誌見た覚えあるのね。・・・飛行機だけが描いてあって、キーンって音が書いてあるだけで、滑走路も建物も何もなかったのが何ページかあったんです。どう見てもおかしいなって感じなんだけどね・・・・。で、三浦さんはその時のアシスタントやってらして、その事件のとき、やっぱりアシスタントとしてビビってたらしくて、それが載った雑誌が出た時、会社でみんなで見ててね、「ゲー、やっぱりまっ白だ」とか言ってたんだって。そこへ先生が来ちゃって、みんなはもう冷や汗だよね、先生はどんなに怒ってるか、なんて思ってるから。そしたら、一緒にのぞきこんでた先生がね「本当にまっ白ですね、ハハハハー」って笑ったんだって。三浦さんは、ああ先生も笑っちゃってる、と思って恐る恐る顔を見たらね、先生、涙、浮かべてたんだって・・・・。
---
もう、ショックを通り越して・・・・怒りを通り越して。
石坂
ものすごく、くやしかったんだと思うんだよね。でも、アシスタントの手前、弱音を吐かないというさ。それを聞いて、もう感動しちゃった。先生らしいのね。
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天才の癖

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手塚先生のライバル意識みたいなことについては、どうです?例えば『風の谷のナウシカ』を観なかったという話もありますけど。
高見
宮崎駿さんには、かなりライバル意識が・・・・あったという話を聞いたことがあります。
石坂
宮崎さんに関しては、直接は聞いてませんけど、あとからいろいろ、みんなに確認したんですね。結局、直接『ナウシカ』を観たなり、批評なりしないかわりに、暗にね「今のアニメ界はもう、人にはまかせられない」みたいなことを言ってるんですね。
---
自分で、やりたくてしょうがなかったんじゃないですか?
石坂
うん、それもね。
吉住
本当は、認めてましたよね。
石坂
すごくくやしかったみたい。先生は、くやしがって批判しちゃうタイプだと思う。
堀田
あれはやっぱ、天才の癖なんじゃないかな。
高見
他のマンガ家のことをね、ずいぶん気にされてたみたい。
石坂
ムキ出しなんですね、ライバル意識が。それで一回、びっくりしたのがね、何人かの若手マンガ家が、先生主催のチャリティ会に呼ばれて来ていて、つまり先生が接待してる形でのパーティだったんだけど、大友克洋さんが出て来たばっかで注目されてた時だったのね。そこで、先生が大友さんにね「ボクあなたの絵、見ました」って言ったの。「マンガをね、虫メガネで見たけど、それでもデッサンが狂ってませんね。スゴイですね!」って言って、「でもボクね、あの絵、描けるんですよ」って言うわけね(笑)、大友さんの目の前でね。それで、うわァーなんて思ってたんだけど、「ボクはね描こうと思えば誰の絵でも描けるんですよ。描けないのはね・・・・」で、二人名前言って、一人は諸星大二郎って言ったんですけど。・・・そういう話はね、半分は本当だと思うのね。描こうと思ったら描いちゃいそうな感じあるし。ただ、よく大友さんの前で、ねェ(笑)。私は大友さんの絵、スゲエなァって思ってましたからね、わあ、言うもんだなーって思っちゃって。
吉住
中央公論のね、藤子不二雄さんの全集が出た時は、落ちこんでました。
石坂
本当に?
吉住
「しばらくボクを一人にしといて下さい」って(笑)。
石坂
へえー。
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ライバルとしては、一番初期に福井英一が登場しますけど、福井さんは、手塚先生とは全く違ったスポーツ物を描いていたわけですけど、その後も手塚先生はほとんどスポーツ物は描いてませんよね。
堀田
弱点かも知れないね、それが。
石坂
昔ね、『あしたのジョー』だか『巨人の星』だかを持ってきて、アシスタントの前にバンッて置いて「みんな、これがどうして面白いのか、教えてくれ」って言ったらしいよ。
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白土三平じゃなくて?
石坂
スポーツ物の方です。・・・ただ、スポーツはね、もっと素朴に、先生は運動がそんなに好きではなかったからなんではないかという・・・・。西武ライオンズの、あのマーク。あれはちょうど私たちがいる頃に描いたんだけどね、レオちゃん、あれが・・・。
堀田
バットの持ち方でしょ(笑)。
石坂
そう、投げる手とバットの持ち方が左右全部逆に描いちゃったんですよ(笑)。逆版で使ったはずですよ。
堀田
あまりスポーツのことわかってないんだよね(笑)。
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マンガ家にとっての弱点、というと、編集者というような場合もありますが(笑)。
石坂
白井さん(ビッグコミックスピリッツ編集長)に聞いた話なんだけど、昔ね、白井さんが先生の自宅に原稿取りに行ったんだって。自宅なら絶対いるからって。で、車つけるとわかっちゃうから、車はだいぶ手前で停めてね。歩いて近づいたらしいんだけど、それでも2階の灯りがフッと消えたらしいのね(笑)。で、絶対いるの。わかってるから、奥さんに「どうもすみません、ちょっと行きますから」って言って、足音をたてないで階段を上がって、2階のドアの前に行ったら、それよりももっと音をたてないで、ドアの下からツーッと原稿が出て来たって(一同爆笑)。
堀田
わざわざ灯りを消すとこがすごいね。
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藤子Aさんの『まんが道』でも、灯りを消すシーンが何回か出て来ますよね。
堀田
今の先生の家に原稿取りに行くことが僕も何回かあったんですね。タクシーで行ってたんですけど、灯りがついてね、「あ、まだ先生起きてるな」と思ってさ、タクシー停めると、パッと電気が消えちゃうの。庭から上がるにも電気が消されてて、まっ暗だからさ。で、何でオレ編集でもないのに消しちゃうんだろうなってブツブツ言いながら行くわけ。で、呼び鈴をピンポンってやるでしょ。そうすると、先生のお父さんが出てくるのね、ステテコか何かはいて。で「手塚プロのアシスタントですけど」って言うと「あーご苦労さん」なんて言われて、そこへドタドタドタって3階から先生が降りてきてね、ステテコ一丁で出てるお父さんを見てさ、すごい恥ずかしがるんですよ。「やめて下さい!こんなかっこで」なんて言って横に倒すんだよ(笑)。でさ、パッと渡してパッと帰すの。でね、電気消すのって、あれ、わざとやってるとしか思えないでしょう。車がパッと着いて、その音だけで消してるから。
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条件反射とか。車イコール編集者。
石坂
そうかも知れないね。必要以上にさ、邪魔される気がするんだと思う。気分的に。
堀田
でも、庭の電気まで消しちゃうんだもんなァ。3階にメインスイッチがあるんじゃないですかね。で、誰か来たら、全部消しちゃう。
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不自然だとは思ってなかったんですか先生としては。
堀田
先生は、けっこう不自然なことを平気でやっちゃうんだよね。
吉住
机の下に隠れたってバレますよね(笑)。
堀田
バレるよね(笑)。窓から抜け出したって見えるしね(笑)。
石坂
カンヅメしてるところからいなくなって、編集者が探し回ってて、とんかつ屋の店内をパッと見たら先生がいてさ、「先生!」って声をかけようとしたら、先生がね、テーブルの下に隠れちゃったっていうのがね、本当にあって(笑)。
堀田
でも、映画はずっと観てたらしいですね。いつ抜け出るか、わかった?
石坂
わかんなかった。でも、パール座なんか、よく行ってたらしいですね。
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では、みなさんそれぞれに、手塚プロ体験で得たものとか、手塚先生に対して、でもけっこうです。最後に一言づつ。
吉住
僕にとっては素晴らしい学校だったですね。マンガの道に入った大きなキッカケでもあるんだけど、あんな大天才の仕事ぶりを見る事は、おそらくもう二度と出来ない体験だったと思いますし・・・先生の存在自体に教えられたことは数しれずありました。仕事としての実感はあまりなかったけど、先生にはとても感謝しています。
堀田
とにかく、手塚先生は本当にムダのない人っていう気がしますね。自分の頭の中に、それだけ・・・例えばアニメでも、時代を先取ろうというものが一杯つまってて、家族を顧みないっていうところもあるけど、地のままで行ってしまった人なんですよね。それで、先生の力を認めざるを得ない、まわりの人それがいて成り立つ天才・・・そういう人を見られたことを喜んでます。
高見
私はもう、アシスタントとしては無能の極致でした。だから、先生のマンガに貢献できた、みたいなことがないんですけど、今描いてる自分のマンガの基礎っていうか、そういうのはもう、全て手塚プロで学んだっていう感じですね、マンガらしきものは、小学校中学校から描いてきたんですけど、やっぱり私のマンガの始まりって言ったら、手塚プロに入ってからだなって思います。今、なんとか食べていけるのは、手塚プロのおかげだし、手塚先生の原稿を手にできた・・・あの主線をね、この目で見られたっていうのはすごい収穫だったと思いますね。
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うまい人の生原稿を見るっていうのが一番勉強になるらしいですね。
堀田
絵がさ、浮き出て見えるんだよね。
石坂
すごくかわいいの。ピノコやユニコが。本当に上手い。
高見
生きてるっていうか。
堀田
あれは未だ描けないもんね。
石坂
私は一年半ぐらいいたんですけど、私のできた仕事といえば、ベタぬりとホワイトと(笑)色原稿の下塗りぐらいで、失敗ばっかりやってたんですよ。で、今、人に(手伝いを)頼むようになってね、もっとしっかりやっておけばよかったとはつくづく(笑)思います。でも、私はね、特に先生が亡くなられちゃってからはね、本当に、先生の近くにいられてよかったなと思って。しみじみ想うと、どう考えても天才だったと思うんですよ。天才って、そう何人も会ったりできないと思うのね。まず、同じ時代に生きられて、こう直接な影響を受けたってだけでも私は、ものすごい幸運だったなぁと思いますね。目のあたりに出来たというだけで奇跡に近い光栄なことだったなって。それが、一番大きく思ったことですね。次に思ったことは、自分のマンガがまだ未熟で恥ずかしくて、先生に堂々と見てもらうことができないままだったのが残念だということ。いつかはいい作品を描いて先生のとこに行って、胸をはって「このマンガ見て下さい」って言おうと思ってたのに、それができなかったからね。すごく寂しいし、すごくくやしい。 それから、もうひとつ。他でも何回か言ったんですけど、先生に「安らかに眠って下さい」って言葉がよく送られますけど。でも、私は絶対、先生は安らかに休んでいられない心境だと思うの。あのバイタリティとエネルギーの生命体は、そんなに納得してお休みになれないと思うんだよね。まだ、貧欲にマンガを描こうとしてるはずなんです。・・・だから、私たちが「残念だね」って言ってる以上に、本人がどれだけくやしかったろうと思うとね、もう本当に、先生が今、地たんだふんでくやしがってるような姿が目に浮かんで、もう一度悲しくなってしまうんです。
復刻版 手塚治虫のディズニー漫画 バンビ ピノキオ
4069355464手塚治虫

おすすめ平均
stars待ちに待った手塚ディスニーの復刻だ。
starsディズニーと手塚治虫の究極のコラボ!!
stars巨匠の幻の作品
stars日本漫画の巨匠と世界のアニメ界の巨匠のコラボレーション
starsようやく読むことが出来ました(^o^)/

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オリジナル

出席者
石坂 啓('78年手塚プロ入社)
高見まこ('78年手塚プロ入社)
堀田あきお('78年手塚プロ入社)
吉住 純('83年手塚プロ入社)
司会
竹熊 健太郎

--'89.3.11/小石川見樹院にて--

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